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東京地方裁判所 平成11年(ワ)18820号 判決 2000年9月28日

平成一一年 ワ 第一八八二〇号 商標登録抹消等請求事件(①事件)

平成一二年 ワ 第一七七〇号 独立当事者参加申立事件(②事件)

①事件脱退原告

破産者【A】

破産管財人

【B】

②事件参加人

株式会社 東北新社

右代表者代表取締役

【C】

右参加人訴訟代理人弁護士

森伊津子

①②事件被告

【D】

右被告訴訟代理人弁護士

福島啓允

成田吉道

星名優

主文

一  被告【D】は、参加人株式会社東北新社に対し、別紙目録記載の商標権について、同目録記載の移転登録の抹消登録手続をせよ。

二  ②事件の訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の請求

一  ①事件における脱退原告の請求

被告【D】は、脱退原告に対し、別紙目録記載の商標権について、同目録記載の移転登録の抹消登録手続をせよ。

二  ②事件における参加人の請求

主文同旨

第二事案の概要

一  前提となる事実関係(当事者間に争いがない。)

1  【A】に対して、平成九年二月二七日に債権者から東京地方裁判所に破産の申立てがされ、同年九月一六日、同裁判所により【A】の破産決定がされ、弁護士【B】が破産管財人に選任された(以下、【A】を「破産者」といい、その破産管財人を「管財人」という。)。

破産者が有していた別紙目録記載の商標権(以下「本件商標権」という。)について、同年一月二二日から同年三月一九日にかけて、破産者の長男である被告名義への移転登録の申請がされ、同年三月一〇日ないし五月二六日付で同目録記載の移転登録がされている。また、破産者は、平成八年一二月二〇日、参加人との間で、劇場用映画「宇宙戦艦ヤマト」の著作権等を対象とする著作権等譲渡契約(甲二。以下「本件譲渡契約」という。)を締結していた。

2  そこで、管財人は、平成一〇年五月に、被告に対して、破産者による本件商標権の被告への譲渡を破産法七二条五号又は同条一号に基づき否認する旨の内容証明郵便を送付した。他方、本件譲渡契約については、参加人から譲渡代金支払の申出があったことから、管財人は、破産法五九条一項に基づき履行の選択を行った。

そして、管財人は、右を前提として、被告に対して本件商標権の譲渡について否認権を行使して移転登録の抹消を求め、参加人に対して本件譲渡契約に基づく譲渡代金の支払を求める訴訟を提起した。これが①事件である。

3  ①事件において、管財人と参加人との間で、本件商標権が本件譲渡契約の対象に含まれていることを認め、参加人が管財人に右譲渡の代金を支払い、管財人が本件商標権について参加人への移転登録手続を行うことなどを内容とする裁判上の和解が成立した。

4  参加人は、右和解が成立したことから、被告に対して、本件商標権についての移転登録の抹消を求めて、①事件に独立当事者参加をした。これが②事件である。

②事件が提起された後、管財人は、被告の承諾を得て、①事件から脱退した。

二  争点

1  本件商標権の被告への譲渡についての管財人による否認権行使の可否

2  本件商標権は、本件譲渡契約の対象となっていたか。

三  当事者の主張

1  争点1について

(一) 参加人の主張

本件商標権についての破産者から被告名義への移転登録の抹消登録手続を求めることは、破産者から既に商標権を譲り受けていた参加人が、詐害行為取消請求権を行使して行うことも可能であったが、破産宣告により、参加人が右詐害行為取消請求権を行使できなくなったことから、これに替えて、管財人が否認権の行使として①事件を提起したものである。破産者及びその長男である被告は、破産者の財産である本件商標権を散逸させて参加人を始めとする債権者を害する目的で、被告名義への移転登録を行ったものであり、このことは、移転登録の申請の日が破産申立ての日に近接する前後であることからも、明らかである。したがって、管財人は、本件商標権の被告への譲渡について否認権を行使し得る。

(二) 被告の主張

破産者及び被告が債権者を害する意思を有していたことは、否認する。

2  争点2について

(一) 参加人の主張

(1) 本件譲渡契約は、その対象の利用価値が不明であったにもかかわらず、譲渡対価は極めて高額であったから、これによって参加人が取得すべき権利は、映像著作物のあらゆる商業利用を何の支障もなく行う権利である必要があった。そのため、同契約は、その一条四項において、「対象権利」は、「対象作品に対する著作権および対象作品の全部又は一部のあらゆる利用を可能にする一切の権利」と定義しており、当然、これを阻害する可能性のある権利(商標権、意匠権、特許権、実用新案権)はすべてこれに含まれる。これらを伴わない著作権のみでは、商業利用は不可能であるから、業務慣行においても、著作権のみを取得するということは通常あり得ない。同契約書別紙(二)の許諾権利の欄には、キャラクター権、プラモデル権等が、別紙(三)にはM/D権、ゲーム化権等が、具体的に対象権利に含まれるものとして記載されており、このような権利を、商標権、意匠権等を取得せずして譲受人が行使することは不可能である。この意味で、同契約の九条一項(4)において、「甲(参加人)による対象権利の行使が第三者の権利を何ら侵害せず、第三者に対する支払を何ら要しないこと」を、破産者が参加人に対して保証すると定めており、このことからも、本件譲渡契約の対象に商標権が含まれていることが、裏付けられている。

(2) したがって、本件譲渡契約に基づき、破産者は、参加人に対し本件商標権の移転登録をする義務を負担している。管財人は、本件譲渡契約につき破産法五九条一項に基づき履行を選択したことから、この義務を履行すべく①事件を提起したものであり、同訴訟の目的たる移転登録の抹消登録手続が終了すると同時に、本件商標権につき参加人への移転登録手続を履行する旨の意思表示をしている。

(二) 被告の主張

本件譲渡契約は、商標権譲渡、商標出願等を含むものではない。右契約は、映画著作物等を参加人に売り切る形のものではなく、実質は映画著作物等の信託・運用契約とみるべきものである。そのことは、以下の事柄から明らかである。

例えば、同契約七条は、同六条において定めた対価四億五〇〇〇万円にさらに追加して対価を払うべき場合とその金額を定め、同八条はその追加対価の発生状況に関する参加人の報告義務を定め、同一〇条は対象作品に登場するキャラクターを使用して新たな映像作品を制作する権利が破産者に留保されることを定めている。要するに、破産者と参加人は、現存する映像作品及び制作を予定していた「宇宙戦艦ヤマト」の新作品の映像著作物を四億五〇〇〇万円で譲渡するが、収益が右金額を超えた場合には破産者に配分されるとするものである。また、同契約一一条では、破産者に、契約締結時から二〇年経過後に買戻権をも認めている。

本件譲渡契約当時、破産者は映画「宇宙戦艦ヤマト」の新作品の制作にかかっており、ウォルト・ディズニー・プロダクションとの基本契約も成立していた。そのため破産者は、その制作費の捻出のためと体調不良から、自己が著作権を有する劇場用映画「宇宙戦艦ヤマト」などの映画著作物を信託的に譲渡することを考え、参加人代表者に相談して本件譲渡契約が締結された。破産者としては、参加人から入金した契約金で、それまでの金銭上のトラブルを清算するとともに、過去の作品についての運用は参加人に任せ、新作品の制作に専念するつもりであった。

しかし平成九年二月二七日、破産の申立てを受け、思うにまかせなくなったものである。このように、本件譲渡契約は、映画著作物等を信託的に譲渡し、運用する契約であり、商標権を含むものではない。

第三争点に対する判断

一  争点1(否認権行使の可否)について

前記争いのない事実(第二、一参照)によれば、本件商標権の譲渡は、本件商標権の移転登録の申請がされた平成九年一月二二日から同年三月一九日ころに行われたものと認められ、破産者がその有する重要な財産である商標権を他へ譲渡するというもので、破産債権者を害する行為というべきである。しかも、右譲渡については、被告から破産者に対して何らかの対価が支払われたことをうかがわせる証拠は存在しない。被告は、破産者の長男であり、右譲渡の行われた当時二三ないし二四歳という若年であり(昭和四八年五月四日生まれ)、自身が固有の財産を有していたということはもちろん、一定の職に就いていたという証拠さえ存しないものであるところ、管財人の当法廷における供述によれば、破産直後における管財人からの質問に対して、破産者は、本件商標権につき被告への移転登録をした理由として、破産者が今後また作品を作るに当たって商標は大切なものであるから、他人に渡したくない旨を述べており、また、管財人が本件商標権の移転登録の抹消を求めて被告と折衝した際に、被告から、何らかの対価を支払った旨の対応はされなかったというのである。これらを総合すれば、本件商標権の譲渡は無償のものと認めるのが相当である。そうすると、前記時期に行われた本件商標権の譲渡に対し、管財人は否認権を行使し得、これにより、本件商標権の譲渡は、その効力を失ったものというべきである。

二  争点2(本件譲渡契約の対象)について

1  証拠(甲二、丁三、管財人の証言)、弁論の全趣旨及び前記争いのない事実によれば、以下の事実が認められる。

破産者は、平成八年一二月二〇日、参加人との間で、自らが関与する訴外株式会社ウエスト・ケープ・コーポレーション、同株式会社ボイジャーエンターテインメント(以下、「訴外両会社」という。)をも当事者として、劇場用映画「宇宙戦艦ヤマト」等の著作権などを対象とする本件譲渡契約を締結した。本件譲渡契約は、その一条四項において、当該契約の「対象権利」は、「対象作品に対する著作権および対象作品の全部又は一部のあらゆる利用を可能にする一切の権利」と定義している。管財人は、右契約に基づき、参加人に対して財産権移転の義務を負っていたことから、破産法五九条一項により双務契約の義務の履行を選択し、マスターテープ等の素材の引渡しを行った。

①事件において、管財人は、平成一一年一一月二六日、参加人(この時点では①事件被告)と裁判上の和解をした。右和解条項において、管財人は、本件譲渡契約一条四項の対象権利の中には対象作品の商標権が含まれており、本件商標権はこれに含まれることを認め、本件商標権につき参加人への移転登録手続を行う旨の意思表示をし、また、①事件における被告に対する本件商標権の移転登録の抹消請求を参加人に承継させる趣旨で、参加人による②事件提起の後、①事件から脱退する旨を確認した。

2 本件譲渡契約は、一条一項ないし三項において、破産者が著作権を有する劇場用映画「宇宙戦艦ヤマト」等の映像著作物を「現存作品」と、破産者が将来完成させる「YAMATO 2520 VOL.4~7」等の映像著作物を「将来作品」と、現存作品及び将来作品を併せたものを「対象作品」と定義した上で、同条四項において、「対象作品に対する著作権および対象作品の全部又は一部のあらゆる利用を可能にする権利」を「対象権利」と定義している。そして、二条において、破産者は参加人に対して、対象権利及びこれを収録したフィルム、テープ等の所有権の一切を譲渡すること、ただし、対象権利及びそのフィルム、テープ等のうち将来作品に関するものは、その完成を条件に破産者から参加人に譲渡することを定めている。また、四条においては、破産者及び訴外両会社が対象作品について第三者との間で締結した契約について、契約上の地位を参加人に譲渡する旨を定めているところ、右契約によって第三者に許諾した権利の中には、対象作品の登場人物等のキャラクター権、プラモデル権等が含まれている。

そうすると、本件譲渡契約における譲受人がその後の事業を展開する中では、単に対象作品の作品としての利用のみにとどまらず、キャラクターの商品化等の様々な利用形態が考えられるのであるから、譲受人によるこのような対象作品の利用のためには対象作品に関する著作権以外のすべての権利、すなわち商標権、意匠権等を含めた権利を、本件譲渡契約の対象として譲受人に移転する必要があり、他方、このような権利を譲渡人において留保する実益はなく、かえって、これらの権利が第三者に譲渡された場合には譲受人の権利行使を阻害する結果となる。このような点を考えると、本件譲渡契約の対象には、対象作品の著作権のみならず、これに関する商標権、意匠権等も含まれると解するのが、契約当事者の合理的な意思に合致するものというべきである。

この点に関して、被告は、本件譲渡契約に新たな映像作品を制作する権利や買戻権が被告に留保されていることなどを根拠に、本件譲渡契約は、映画著作物等を参加人に売り切る形のものでなく、映画著作物等を信託的に譲渡し、運用する契約であり、商標権を含むものではない旨を主張する。しかしながら、本件譲渡契約の内容を全体として検討しても、原告主張のような趣旨での契約とは解されず、本件譲渡契約に譲渡人に買戻権を認める条項があることは、同契約一条四項の「対象権利」を限定する根拠とはならない。この点についての被告の主張は、採用できない。のみならず、そのように限定する解釈は、参加人における「対象権利」の有効かつ円滑な利用の妨げとなるので、契約当事者の意思に反するものというべきで、採用できない。

そうすると、参加人は、右契約により、破産者から本件商標権をも譲り受けたと解すべきであり、その履行が行われなかったため、破産宣告後、管財人がこれを履行することを選択した場合、破産管財人の履行により、当該商標権も参加人に移転されたと解すべきである。

三  結論

以上検討の結果を踏まえると、否認権は、私法上の形成権として、破産管財人が訴状若しくは準備書面の相手方への送達又は口頭弁論期日における意思表示をしたことにより効力を生じるものであるから、①事件における管財人の否認権の行使により、破産者から被告への本件商標権の譲渡はその効力を失い、本件商標権は、破産財団に復帰したものであるところ、本件譲渡契約について管財人が破産法五九条一項に基づき履行の選択を行っているのであるから、本件商標権は破産財団から参加人に移転したものというべきである。したがって、本件商標権についての権利を管財人から承継した参加人が、被告に対してその移転登録の抹消手続を求める②事件における請求は、理由がある(なお、付言するに、管財人は、当法廷において、①事件における参加人との間での和解は、仮に本件譲渡契約の対象に本件商標が含まれていなかった場合には、改めてこれを参加人に譲渡する趣旨をも含むものであると証言しているのであるから、いずれにしても、本件商標権は、破産財団から参加人に移転しているものと認められる。)。

四  以上によれば、参加人の請求は理由があるから認容し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 村越啓悦 裁判官 中吉徹郎)

<以下省略>

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